AI半導体、インテル逆襲、買収で技術、初の量産型、先行エヌビディアに照準

画像などのビッグデータを高速処理できる人工知能(AI)半導体を巡り、新旧「王者」による一騎打ちが始まろうとしている。
米インテルは23日、AI向けの処理に特化した新たなプロセッサーを2019年に投入すると発表した。
矢継ぎ早の買収で技術を取り込み、同分野で先行する米エヌビディアを追う。
技術革新が起こるたびに盟主交代を繰り返してきた半導体産業。次の主戦場はAIだ。
「深層学習(ディープラーニング)に最適化した初めての量産型のチップだ」。
23日、米サンフランシスコで開いたAI開発者向けの会議でインテルのナビーン・ラオ副社長は新製品を紹介した。
披露したのはAIの基幹技術である深層学習に特化した半導体。
これまで一部の協業先に提供してきた製品の処理能力を3~4倍に高め、データセンターやサーバーを持つ企業に来年から売り出す。
この日、インテルはデータセンターから仮想現実(VR)端末、ドローン向けまで分野ごとに適したAI半導体を投入する戦略を表明。
「それぞれのAIに正しい道具を提案する」(ラオ氏)と全方位戦略を打ち出した。
名指しこそしなかったものの、エヌビディアへの挑戦状とも言える。
ひと昔前はゲーム愛好家しか知らなかったエヌビディアの画像処理半導体(GPU)は今ではAI半導体の代表としてデータセンターから自動運転車にまで入り込む。
エヌビディアの売上高は18年1月期通期で97億ドル(約1兆700億円)とインテルの約6分の1だが、トヨタ自動車など自動車大手と組むほか、4月にはキヤノンメディカルシステムズと提携するなど医療分野でも勢力を拡大している。
3年前にはパソコンやサーバー向けのCPU(中央演算処理装置)しか持たなかったインテルは買収攻勢で巻き返しを急ぐ。
23日に発表したAI半導体も16年に買収したスタートアップ企業のナバーナ・システムズが技術を保有していた。
ラオ氏もナバーナの最高経営責任者(CEO)からインテルのAIトップに転じた人材だ。
ドローンに載せる低消費電力型やデータセンター向けの一部も買収した企業の資産。
車載半導体のモービルアイ(イスラエル)も含めると、インテルがAI関連のM&A(合併・買収)に投じた金額は開示されているだけで320億ドルを超す。
インテルがパソコン向けCPUで稼いだキャッシュを惜しげもなく投じるのは、AIが社会のあらゆる領域に浸透することで、半導体産業の勢力図さえも変えてしまうと考えているからだ。
CPUで米IBMなどの専用半導体を駆逐し、パソコン時代を築いたのが30年ほど前。
一方でIT(情報技術)端末の主役がスマートフォンに切り替わる時は迅速に動くことができず、主役をクアルコムに譲った。
インテル本社に施された設立50周年を祝う装飾。
「2018」という数字の右隣には「2068」と書いてある。
自動車から家電、データセンターまで、ハードの垣根を越えて浸透するAI。乗り遅れれば、インテルに2068年はやってこない。
人工知能(AI)半導体の競争が本格化する背景には、膨大なデータを処理するうえで従来型の半導体の限界が近づいていることがある。
CPUの性能向上を支えてきた半導体回路の集積度が2年で2倍になる「ムーアの法則」が限界を迎えつつあることは業界では共通の認識だ。
深層学習に強いエヌビディアのGPUが一気に台頭したのはそのため。
それに対しインテルはCPUと組み合わせて使う専用のAI半導体をそろえようとしている。
もっとも、AIの時代に欠かせないインフラの盟主の座を狙い、AIサービスを展開する世界のIT(情報技術)大手も半導体の開発に乗り出している。
5月初旬、グーグルはAIをクラウドで提供するための専用プロセッサー「TPU」の改良機種を発表した。
インテルやエヌビディアにとっては顧客となるクラウドサービスを提供するIT大手が潜在的な競争相手となりうる。
中国勢も動く。インターネット通販最大手、アリババ集団もAI半導体への参入を表明したほか、仮想通貨の採掘用チップで財を成した中国企業なども参入を打ち出している。