ドローンが臓器移植の未来を変える

ドローンが臓器移植の未来を変える

ドローンの有効利用の方法の一つとして、米国の医学研究者が移植用臓器の搬送に世界で初めてドローンを採用する実験を行った。ドローン搬送実験を行ったのはメリーランド大学のジョセフ・スカリア医師。スカリア医師は自らが移植外科医であり、過去に移植用の臓器が時間内に届かなったため結果として使用できなかった、という経験を持つ。移植用臓器はドナーから摘出後できるだけ早い時間でレシピエントに移植する必要がある。時間とともに臓器の機能は衰え、移植の失敗に繋がることになる。

「せっかく提供された臓器を無駄にしないために、搬送用のより良いシステムを構築する必要があった」と語るスカリア医師は、メリーランド大学の宇宙航空工学部を巻き込んだ研究チームを設立し、ドローンによる移植の可能性を探ってきた。

 チームが用いたのはDJI M600ドローンで、これに冷蔵ボックスを組み込み、さらに搬送中に臓器の状態をモニターするためのバイオセンサーも装着させた。この実験機を実際に利用する機会を数カ月待っていた、という。チャンスが訪れたのは今年3月で、「健康ではあるが移植に適さない」腎臓を手に入れることができた。チームはこの腎臓を使い、実験機の駐留場所であるボルチモアから14カ所への試験的搬送を行った。

スカリア医師は実験についての論文の中でドローン輸送を考えた理由の一つに「臓器の輸送可能距離が長くなった」ことを挙げている。米国の臓器移植ネットワークではこれまで腎臓を搬送できる最長距離を440マイル(約700キロ)としていたが、最近になって706マイル(約1100キロ)に改めた。搬送可能距離が長くなることは、それだけ対象レシピエントが増えることを意味するが、医師にとっては輸送時間が長くなることは問題だ。

米国では長距離輸送には小型飛行機やヘリコプターが使われることが多いが、病院にヘリポートがあり利用できる場合はともかく、どちらかの病院にヘリポートがない場合、最寄りの飛行場から陸上輸送となる。このラストマイルの時間的ロスをなくすために、ドローンが有効なのでは、と考えた、という。

今回の実験では最長5キロまでの14回の輸送を行い、実験の前後に腎臓の状態をバイオプシーにより精査したところ、非常に良い状態で輸送できた、という。またドローンのモーターにより冷蔵ボックス内の温度に影響が出るのでは、とも懸念されたが5キロの距離でもボックス内の温度は2.5度に保たれた。

乗り越えなければならない課題

 米国では移植用に摘出されたものの劣化により移植に使用されない腎臓は20%前後だという。ドローン輸送の導入によりこの数字を低めることが出来れば、移植により助かる命が増える、と論文は主張している。今回の実験でのドローンの速度は時速67キロ程度だったが、もし時速350マイル(約560キロ)で飛ぶドローンが実現できれば、米国の東西を結ぶ臓器搬送も可能になる。腎臓は摘出後24時間以内に移植できるのが理想とされるが、現在の米国の平均搬送時間は16-18時間、内陸部郊外など一部の場所では30時間を超えることも少なくない。

ただしドローンの臓器搬送への導入には超えるべき壁も多い。最大のものは現在のFAA(連邦航空局)による規制で、ドローンは可視範囲の高度で飛ぶことが定められている。そのため現時点ではドローンは短距離の輸送にしか適さない手段となっている。また今回の実験では短時間の飛行であるため臓器の劣化は目立たなかったが、長距離を移動する場合は現在よりも大掛かりな冷蔵ボックス装置が必要となり、その重量に耐えうる、かつ長距離を高速で移動できるドローンを開発する必要がある。

医学の現場でのドローン活用は臓器搬送に限らない。ミシシッピー州のウィリアム・キャリー大学では自然災害の際、あるいは僻地への医療支援物資のドローンによる輸送を研究している。医学の現場へのドローン活用は今後も可能性が広がっていきそうだ。

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