空飛ぶタクシー、世界が競う ウーバーが先陣か

「空飛ぶタクシー」と呼ぶ次世代輸送サービスの開発競争が熱を帯びてきた。米配車大手のウーバーテクノロジーズや欧州航空大手のエアバス、独自動車大手のアウディなど世界の企業が業種や規模を超えて開発を競い始めている。各社が熱視線を注ぐのは、空飛ぶタクシーが移動手段や都市交通の大転換点になりうるからだ。実現への課題は多いが、移動革命の覇権争いが幕を開ける。
「新宿から横浜まで車なら1時間かかるが、飛行すればわずか10分で行ける」。ウーバーが30日、都内で開いた都市内航空輸送サービスの開発者会議。同社のバーニー・ハーフォード最高執行責任者(COO)は強調した。米国外で初めての開催となった同会議には、航空機メーカーや政府関係者ら国内外の100人以上が参加。小池百合子東京都知事も駆け付け、関心の高さを物語る。
「技術に裏打ちされた交通手段を日本中に安価に提供したい」。そうハーフォードCOOが言及したのが、2023年にも同社がサービス開始を見込む次世代輸送サービス「ウーバーエア」だ。
電動の垂直離着陸機に人を乗せ、ビル屋上などに設ける発着場を結ぶサービスで、最新コンセプト機の仕様は最高時速が320キロメートル。パイロットのほかに客が4人乗れる。離着陸時に水平回転する4組のプロペラが駆動。垂直方向に回転する尾部のプロペラが前方への推力を生む仕組みだ。
ウーバーエアは、いわゆる「空飛ぶタクシー」と呼ばれる次世代輸送サービス。複数の電動プロペラで垂直に離着陸し、人を乗せる機体を指す。ドローン(小型無人機)などの技術を応用する。ドローンと旅客機の中間のような位置付けで、渋滞解消や災害時の救急搬送、過疎地の交通の足として期待されている。
まず20年に米国のロサンゼルスやダラスで飛行実験に入る計画。米国外でも日本とオーストラリア、ブラジル、フランス、インドのいずれか1カ所で試験飛行する。輸送コストはヘリコプターより大幅に下げられるという。鉄道で1時間半ほどかかる成田空港―羽田空港間は、約20分で済むとの試算も示した。
ウーバーだけではない。開発プロジェクトは世界で約40件にも上る。多くのプロジェクトはヘリコプターや航空機より低コストで手軽に、タクシーに乗るように空を飛べる未来像を描く。
欧州航空機大手のエアバスは米国で1人乗りの空飛ぶタクシー「バハナ」の実験を実施。4人乗りの「シティエアバス」の試験飛行も年内に始める予定だ。独自動車大手のアウディとともにコンセプト車も発表した。
スウェーデンのボルボや英高級車のロータスを傘下に収める中国の浙江吉利控股集団は、空陸両用の車両を19年に発売する計画だ。シンガポールやアラブ首長国連邦(UAE)は国を挙げて実験の場を提供している。
海外で取り組みが相次ぐのは、空飛ぶタクシーが空の交通手段の一大革命となるためだ。世界各地で深刻な交通渋滞による経済損失の低減につながるほか、機体開発や人の往来活発化で経済活性化と企業の成長にも期待がかかる。AQU先端テクノロジー総研(千葉市)は空飛ぶタクシーの世界市場が26年に1兆円規模になると予測する。
海外に比べ動きが鈍かった日本でも、動きが活発になってきた。トヨタ自動車などが支援する有志団体「カーティベーター」は空陸両用の「スカイドライブ」の開発を進め、20年東京五輪の開会式での飛行を目指す。
プロドローン(名古屋市)などのスタートアップ企業も空飛ぶタクシーを開発する。コロプラ元副社長で個人投資家の千葉功太郎氏が立ち上げたドローンファンドのように、空飛ぶタクシーを含むドローン関連事業に資金供給する動きもある。実用化を推進する官民協議会も29日に発足した。
実用化への道のりは長い。機体の強度やバッテリー容量、騒音対策など技術的な課題のクリアが必要だ。加えて、それらの基準や管制システム、飛行可能区域などを規定するルールも求められる。そもそも、事故が起きたら墜落が避けられない。安全性をどう確保するのかという問題がある。
航空機は強度や性能が基準を満たしていることを示す「耐空証明」の取得が必要だが、29日に開かれた官民協議会の初会合では新たな基準を求める声が上がった。米国などで規制当局と産業界との協議が進んでいることを引き合いに、「スピード感のある柔軟な対応で世界に追いつく必要がある」と危機感を吐露する出席者もいた。20年代の実用化に向け、協議会は年内にも技術開発や制度整備の工程表をつくる。
事業性も課題だ。空飛ぶタクシーは自動運転技術や人工知能(AI)の活用も見込まれ、ドローンファンドの千葉氏は「開発費用が1機あたり100億~300億円かかる」と指摘する。ウーバー日本法人で政府渉外・公共政策部長を務める安永修章氏は「将来はタクシーと同程度の価格での提供をめざす」と話すが、開始当初は大幅に割高にならざるを得ない。
プロジェクトの多くが当面の開発や飛行の目標を20年代前半までに据える。ダラスなどの具体的な都市名やスケジュールを公表しているウーバーが一歩先んじているように見える。開発の進み具合や事業化の描き方次第で、他の陣営が巻き返す余地も十分にある。開発競争は始まったばかりで、勝者はまだ見えない。
米国のライト兄弟が人類初の本格的な動力飛行に成功した1903年から115年。飛行機の普及で身近になった空の移動は、本当の意味での大衆化を迎えようとしている。「空の移動革命」の実現に向けて主導権を握ろうとする競争に、世界は目を離せなさそうだ。

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